絵と本

<< September 2018 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 >>
<< 世界で一番美しい本を作る男 ーシュタイデルとの旅ー | main | ディック・ブルーナ Dick Bruna 追悼 >>
きりの中のサーカス ブル−ノ・ムナーリ作

霧の中のサーカス_J_1
 

30年ほど前になるのか。
ブルーノ・ムナーリの名前を知り、おそらく
はじめて手にした作品がこの絵本だった。

 

1968年にイタリアで初版本発行。
1981年に八木田宜子さんが日本語に翻訳、好学社から初版本が出版。
その後、絶版となり、2001年に谷川俊太郎さんの翻訳で
再びフレーベル社から復刻。彼の絵本作品の中でも代表作だ。(と思っている)

 

はじめて頁を開いたとき「こんなのあり?」が、最初に思ったこと。
他のどんな絵本とも違っていた。印象は「絵本」ではなかった。
言葉よりも、素材、色や形を駆使して、1cm以下の束の中に、
深い奥行きとリアルな空間を作り出している「画集」、という趣。
多色刷りで、異なる色のファインペーパーをふんだんに使い、
型抜き、断裁がされて造本としては、贅沢だし加工も難しい。

 

「トレーシングペーパーって、向こう側がぼんやり見えて、
まるで霧の中にでもいるようじゃない?」と子どもに説明するまでもなく
直感で靄のかかった街がそこにあるように意図的に計算してつくっている。
それがリアルなのである。今でこそバーチャルリアルといえば、仮想現実空間と
みんなわかるけど、これは、アナログなVR。そんな感覚だった。
透けているから、うっすらと霧の向こうに見える風景に誘われて
自然と手は、次のページをめくる。
「言葉」が、ストーリーをつくりだしているのではなく、
ページをめくる度に表れる「絵」が、自然と言葉を語らせてくれる。
「信号機だ」「青になった」・・・・・絵本としての
物語が最低限の活字で構成されている。

「感動」という情緒的な気持ちより、物質的にこんな印刷はありか!?

という則物的な思考だけが残った。

 

後々、「ブル−ノ・ムナーリ」が、デザイナーとしても、
美術家、哲学者としても偉大な存在であることを知るきっかけとなり、
アイデアを形にすることは、ボワッとしたイメージを、
カチッと現実世界の

高度な技術で絵にすることなんだ、と身体に染みこませてくれた一冊です。
 

きりの中のサーカス_J_中面1

「1981年 日本語 好学社版」は、表4に洒落た細工がされている。
トレーシングペーパーで、透けたその奥を向こう側、つまり裏側から見たような
気持ちにさせる反転(鏡像に)した文字でタイトルが載せてある。
ブル−ノ・ムナーリ本人の日本語出版にのみ施したアイデアなのか、
編集のプロセスで生まれたアイデアなのか・・・。
最後の最後まで、なんて遊び心に溢れているんだろう。
この一冊から、グラフィックデザインの深さと、向き合い方を思い知らされた。

よもや、自分の長男の名前が「ブル−ノ」となるとは、
まだ思いもよらなかった時代の作品である。


きりの中のサーカス_J_表4
作 ブル−ノ・ムナーリ
『きりの中のサーカス』(NELLA NEBBIA DI MILANO)
訳 八木田宜子
株式会社好学社刊 
第1刷/1981年6月2日 第2刷/1989月12月4日*
[日本語版]

COMMENT









Trackback URL
http://www.etohon.jp/trackback/63
TRACKBACK